坂東玉三郎

何かきっかけがあって、人はその出来事をまず「感受」します。やがて、それが自分の頭脳に、いわゆる感情として「浸透」していき、その結果「反応」が生まれてくるわけです。これは生理的に行われるものなのですが、それを意識的に作っていくというのが演技なのです。したがって、演技をする、つまり感情をリメイクしていくというためには、「感受」、「浸透」、「反応」の3つの過程が必要だということになります。 「感受」ですが、これは五感のことです。つまり、見る、聞く、においを嗅ぐ、味を感じる、そして肌で感じる。そして、その場の状況や「感受」した出来事や衝撃、あるいは誰かの行為に対して五感が受けた刺激の大小によって、その人の血圧や脈拍が反応して、浸透の速度が決まるわけです。その結果、自分の身体を使って、人間は「反応」していくわけです。 「演技」をする上で、もう一つ大切なことがあります。それは、内的感情というか、内的煥発とでもいうものです。自分の心の内からこみ上がってきたものに、不意にハッとすることがある。つまり、そこで内的感受ということが起きるわけです。